大判例

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和歌山地方裁判所 昭和24年(行)17号 判決

原告 宮下利助

被告 和歌山県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は、被告が和歌山県海草郡下津町大字下津字東新田八百一番地の三宅地百八坪九合四勺につき上野きよゑの訴願に基ずき昭和二十四年十月二日為した容認の裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因とするところは、原告は昭和三年以来右土地をその所有者上野周三郎及びその妻上野きよゑより賃借し畑として耕作している者であるが、昭和二十四年八月六日下津町農地委員会に対し自作農創設特別措置法に基く不在地主の小作地としてこれが買受の申込をなしたところ、同委員会は同月十日これを買収して原告に売渡すべき旨の計画を立てた。次いで右きよゑより買収計画に対し異議を申立て却下の決定を受けたので更に訴願をし同年十月二日被告によつて請求趣旨のような容認の裁決がなされた。然しながら右裁決には次のような違法がある。

(一)  右裁決は、その理由として、同法第五条第五号の指定承認申請もあり近く使用目的を変更すると認められることを掲げているけれども、同号によつて買収除外地となるためには同号による指定が予じめなされていなければならないに拘らず本件土地については右裁決当時未だこの指定がなされていなかつた。

(二)  右裁決の基礎となつた訴願は上野きよゑによつて申立てられたものであるが、本件土地は所有者上野周三郎の死亡により昭和十七年その長男上野英幸の有に帰したものであつて、上野きよゑは一度も所有者となつたことがないから、同人は右訴願人たるの適格がない。

と、いうのであると述べた。(立証省略)

被告代理人は主文のような判決を求め、答弁として、下津町農地委員会が原告主張のような買収計画を立てたところその主張のような異議、訴願並に裁決のあつたことはこれを認めるが右裁決には原告主張のような瑕疵はない。即ち、

(一)  右土地は下津町の中心にあつて近く使用目的を変更するを相当と認めたので、その権限を有する被告においてその旨の指定をなすと同時に本件訴願を容認し買収計画を取消したものであつて、右指定の正式書面は裁決後同じ月の十八日作成即日告示している。

(二)  右土地が本件裁決当時上野英幸の所有に帰していたかどうかは知らないが、仮りに本件訴願人たる上野きよゑが所有者でなかつたとしても、同人は買収計画に異議の申立をした者であるから、異議に対する却下決定に対して訴願をなす適格を有するものである。

と陳述した。(立証省略)

三、理  由

原告主張のような買収計画の樹立並に異議、訴願及び裁決のあつたことは本件当事者において争のないところである。

よつて、先ず右裁決に原告主張の(一)の瑕疵があるかどうかについて按ずるに、成立に争のない乙第四号証の裁決書によれば原告主張のような裁決理由の掲げられていることが明であると共に、これと成立に争のない乙第三号証同第五号乃至八号証によれば右裁決と同時に本件土地が指定権者たる被告によつて本件土地が前記法律第五条第五号にいわゆる近く土地使用目的を変更するを相当とする農地として指定せられたものであることを認めることができ原告の全立証を以てしても右認定を覆すに足る心証を惹くものがない。原告は同法第三条による買収を除外するためには予じめ同法第五条第五号の除外指定あることを要する旨主張するけれども、本件におけるが如く買収除外の指定権者と買収計画の取消権者とが同一機関である場合には右指定と同時に之を前提とする買収計画取消の裁決をなすことを得るものであるのみならず、仮りに右取消が右指定に先立つてなされたとしてもその瑕疵はその後における指定によつて治癒されるものといわねばならない。更に、右除外指定はいわゆる法規裁量行為と解すべきであるから同法第五条第五号に該当する農地についてその旨の指定をなさずに買収計画を維持した場合においては、右買収計画もしくはこれを容認した異議の決定又は訴願の裁決は却つて瑕疵あるものとして裁判所によつて取消さるべき運命にあるものである。されば、形式的に同法第五条第五号の指定の存否もしくはそれが買収計画もしくはこれに関する異議決定又は訴願の裁決より前であるか後であるかということは結局これらの計画、決定もしくは裁決が適法なりや否やに関する裁判所の断定に何等の影響のないことであつて、影響するところのものは実に当該農地が前記法条第五号の農地たるの要件を具備しているか否かにあるのである。この最後の点に関しては原告は何等主張するところがなく却つてその地目が宅地であることを自認するに止るから必ずしも判断を与える必要がないけれども、試みに証拠を按ずるならば、本件土地の所在する下津町大字下津は県下第一の良港であつて古くより紀州蜜柑、木材の積出が盛で近く開港場に指定せられて町内に、あるわが国屈指の二大製油工場の原油積取船が出入し近時頓に殷賑を来したけれども山が海に迫つて適当な宅地に乏しく、本件土地は唯一の幹線道路たる県道に沿う唯一の空地であつて、ほゞ町の中央に位し停車場にも近く附近に旅館、キヤバレーその他の商店の並んだ間に二方に石垣を積み県道の高さまで岩石の破片を以て地盛された所であることは検証の結果に徴して明であり、原告においてこれを耕作しているけれども地主に対しては特段その対価を支払つていないこと及び地主側においてこゝに住家の建築を企て昭和二十四年八月一たびは原告より明渡の承諾を得お礼として原告に数万円を交付したことは証人上野きよゑの証言によつて認められる。しからば、本件土地について、仮りに同法第五条第五号の指定なされていなかつたとしても、その買収計画は瑕疵あるものとして取消を免れないものであつて、被告がよく土地の実情をきわめてこれを取消したことは実質的に見てまことに相当であるというべく、この結論は、原告主張のように右指定行為が裁決の後であつたとしても、或はまた当裁判所認定のように同時であつたとしても、同様であるから、本件裁決には原告主張の(一)の違法ありとなすを得ない。

次に、原告主張(二)の瑕疵ありやについて按ずるに、成立に争のない甲第一乃至三号証によれば、本件土地はもと上野周三郎の所有であつたが、昭和十七年十一月その死亡に際し長男上野英幸が家督相続によつてこれを取得して今日に至つていることが認められ、また、成立に争のない乙第二号証によれば、本件訴願が上野きよゑ名義を以て為されていることが明である。被告は、買収計画に対する異議申立は右きよゑ名義を以てしその名義を以て却下の決定を受けたのであるから、同人が当然これに対する訴願をなす適格を有する、と主張するけれども、これだけでは買収計画を取消した本件裁決手続を適法となすことを得ない。けだし、右決定を受けた者が訴願をなし得ることはもとより当然であるけれどこの者が訴願事項の内容について実質的な検討を受け得るためには右買収計画乃至は右決定について実質的な利害関係を有していなければならないのであつて、この後者の要件を欠く場合には被告はこの要件の有無だけを審査するに止め買収計画の適否を判断することなくこれを却下すべきものであるからである。すなわち右に述べた却下決定を受けた者はこれに対し訴願をなし得るというのは訴願庁をして訴願を受理し却下の裁決をなすの義務を負わしめるというだけのことである。そこで、証拠を調べてみると、前記甲第一号証によれば、訴願名義人たるきよゑは前記の亡周三郎の妻であり本件土地の現所有者たる前記長男英幸の母としてその親権者たることを認め得るに止まり、他に本件土地従つてまた本件買収計画乃至決定について法律上の利害関係あることを認め得ないのであつて、乙第二号証の訴願書の署名をきよゑ個人のものと見るならば本件訴願は実質に立入ることなくして却下すべきものであつたであろう。しかしながら、右訴願書中の「所有者の亡父」云々の記載並に「長男の成人を待つて近き将来該土地に住家を建築する予定である」旨の記載と前に認定したきよゑの親権者たる地位とに想到すれば、右訴願はきよゑが未成年の所有者たる英幸の親権者すなわち代理人としてなしたものと認められ、反証のない本件においては同人のなした異議申立並に下津町農地委員会及び被告のなした決定及び裁決もまたきよゑを右と同じ資格におけるものとしてなされたものと見るを相当とする。しからば、本件土地の所有者英幸に代理してなした訴願に対し被告がその内容につき実質的審査を遂げて訴願容認の裁決をなしたことはまことに相当である。

以上のように、原告の主張はいずれも失当であるから訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 井関照夫 小木曽競 宇都宮綱久)

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